大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和47年(オ)1243号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人吉岡桂輔、同吉岡大輔の上告理由第一点について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)と、その挙示する所論固定資産課税台帳登録証明書によれば、原審は、本件建物の床面積四九・五八平方メートル(一五坪)に対する昭和四四年度の固定資産課税評価額が金二三万八八〇〇円であると認定し、この評価額を基準として所論損害額を算定したことがうかがわれ、右認定・判断は首肯することができる。論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないでこれを非難するか、または独自の見解のもとに原判決の違法をいうにすぎず、採用することができない。

同第二点について。

原判決および本件記録によれば、所論の主張事実は、被上告人の承諾があつた旨および被上告人の本訴請求が権利の濫用である旨についての主要事実でない間接事実として陳述されたものであることが認められるから、原判決に所論のような判断遺脱の違法はない。したがつて、原審が所論の点につき釈明を求めなくとも審理不尽の違法があると解することはできない。論旨は、採用することができない。

同第三点および第四点について。

賃借人が賃貸人の承諾をえることなく賃借にかかる建物の全部またはその一部を取り毀すことは、賃貸人に対する賃借物保管義務の重大な違反行為にほかならない。したがつて、取毀しの程度が極めて軽微である等社会通念上是認できる特段の事情のないかぎり、賃借建物を取り毀すことによつて賃貸借契約の基礎である賃貸人と賃借人との間の信頼関係に著しい破綻を生ぜしめるにいたるものというべく、そして、このような場合、賃貸人が賃貸借契約を解除するため催告を必要とするのは事柄の性質上相当でないから、賃貸人は催告を経ることなく契約を解除することができるものと解すべきである(最高裁昭和四六年(オ)第一七九条同四七年二月一八日第二小法廷判決・民集二六巻一号六三頁参照)。

本件についてこれをみるに、原判決の確定した事実関係によれば、上告人が被上告人の承諾をえることなく、本件建物の一部を取り毀したものであつて、その程度は極めて軽微とはいえず、他に特段の事情は認定されていないのであるから、原判決が被上告人のした契約解除の意思表示の効力を認めた判断は正当として是認でき、原判決になんら所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例